1.豆腐はこうして作られる
総理府統計局の家計調査によると一世帯平均で、年間に約79丁の豆腐(焼き豆腐を含む)を消費しているそうですから、4、5日に一度は、豆腐を買っていることになります。さて、あなたの家庭ではいかがでしょうか。ところで一見、大豆からできたとは思えないようなこの豆腐は、どうやって作られているのでしょうか。昔ながらの製法でひとつひとつ作っている町の豆腐屋さんと、オートメーションで大量生産している企業では多少違いますが、基本的には次のような手順で作られます。
異物を取り除き選別された大豆を水に浸し、十分に水分を吸収させてから、粉砕機で砕くと、白い粥状のものができます。これを「呉」といいます。呉を水と一緒に煮て加熱したあと、こし袋に入れて、圧力をかけます。この時、こし袋から出てきた乳白色の液体が豆乳で、袋に残った固形物がおからです。
豆腐はこの豆乳に、「ニガリ」と呼ばれる凝固剤を入れて固めればできあがります。ニガリというのは、もともとは自然塩を作るときにとれるものでした。自然塩は、海水を煮つめて作りますが、この時、塩ができた後に残った液体が、ニガリです。
しかし、現在の日本では自然塩を作っていないために天然ニガリもできません。そこでニガリの主成分である塩化マグネシウムを工業的に生産しそれを凝固剤として用いているのが普通です。「天然ニガリ使用」を売り文句にしている豆腐の場合は、普通、中国から天然ニガリの粉末を輸入して利用しています。
もめん豆腐ときぬごし豆腐はどう違う?
先ほど、豆腐は豆乳にニガリを入れればできると簡単に言ってしまいましたが、じつは豆乳から豆腐ができるまでの工程にはいろいろの方法があります。豆腐にはもめん豆腐ときぬごし豆腐がありますがこれも製造工程の違いによって分かれるものなのです。
もめん豆腐は豆乳を固めた後、これを一度崩してしまいます。すると、専門的には「ゆ」といわれる黄色い上ずみ液が出るので、それをすくい出してから、穴のついた四角い型箱に入れて型を作ります。これに圧力をかけて、まだ豆腐に含まれている「ゆ」をゆっくりとしぼっていけば、もめん豆腐のできあがりです。
きぬごし豆腐の場合には、直接型箱に豆乳と凝固剤を入れて、そのまま固めてしまいます。 もめん豆腐の表面はザラザラしていますが、きぬごし豆腐の表面はなめらかです。これも製造工程の違いからきているのです。もめん豆腐の型箱には、「ゆ」をしぼる際にこし布が敷かれるため、その布のあとが豆腐の表面につきます。きぬごし豆腐では、「ゆ」をこす過程がありませんから、型箱に布を敷くことがなく、当然布のあともないわけです。
もめん豆腐ときぬごし豆腐のほかに、密封された容器に詰められ、1、2か月は保存できるという充填豆腐というものがあります。この充填豆腐は、豆乳を一度冷やしてから、凝固剤と一緒に容器に入れ、密封して作られます。その後、容器ごと加熱して、中の豆乳を固めてしまうのです。このような製法で、原料の大豆1キロから1丁300g程度のものが、もめん豆腐なら12、3丁、きぬごしや充填豆腐なら15丁くらい作ることができます。
2.豆腐の消化吸収率はなんと95パーセント
豆腐の製法は、大豆を砕いたりじつに手がこんでいます。面倒なことこしたり、固めたりをせずにいっそのこと大豆をそのまま食べてしまえばいいように思えますが、豆腐には、大豆のもつ栄養を十分に消化吸収できるという、大きなメリットがあるのです。
大豆にかぎらず、植物性のたんぱく質源は一般に、消化吸収が悪いという欠点があります。消化吸収されなければ、せっかくの栄養素も無駄になってしまいます。動物性たんぱく質源に比べて消化吸収性が劣るのは、植物には消化しにくい繊維質がたくさん含まれているためです。そこで豆腐の加工工程というより豆乳作りの際に、布でこして、繊維質はおからとして分離してしまいます。ですから、豆乳も豆腐も、消化がたいへんよいわけです。
豆腐のたんぱく質消化吸収率は、およそ95%といわれますから、豆腐に含まれるたんぱく質は、ほとんど無駄なく消化吸収されます。ちなみに大豆を炒っただけの炒り豆では60%、煮豆は68%、納豆は85%くらいといいますから、いかに豆腐が消化吸収パツグンかわかっていただけると思います。
たんぱく質のほか脂質も糖質も、それぞれ97%ほどの消化吸収率を誇り、これら の数字は、消化吸収がよいとされる動物性たんぱく質源とくらべてもほとんど遜色ありません。
オリゴ糖が消化吸収率を高める
豆腐の成分は80~90%が水分ですから、大豆そのものと豆腐では、同じ100gといっても、当然栄養素の量は豆腐のほうが少なくなります。しかし豆腐のもとである豆乳は、大豆のエキスをそのまましぼったものといえるので、食物繊維をのぞいては、大豆の栄養素のもつすぐれた栄養をほとんどそのまま引き継いでいます。
たんぱく質に含まれる必須アミノ酸も、大豆同様にバランスよく含まれていますから、質の高いたんぱく質であることはいうまでもありません。
また豆腐は淡白なので、脂肪分がないように思えますが、実際には、もめん豆腐で100gに5g含まれています。これは魚のあじと同じぐらいの量なので、意外に脂質はありますが、もちろん豆腐の脂質は体によいリノール酸が中心です。
大豆の糖質は、オリゴ糖という、腸内のビフィズス菌を増やしてくれるものです。その結果、腸の嬬動運動(下に押しだす力)を高めたり、体によくない菌の繁殖を防いだりすることができますから、腸の働きの調整ができます。その意味では、オリゴ糖もやはり豆腐の消化吸収を助けているといえるでしょう。
ただビタミン類は、加熱によって壊れやすいので、大豆に豊富なビタミンB1、B2、ビタミンEなどは多少低下します。成人病予防で注目される大豆サポニンも、加熱や加工途中で消泡剤(サポニンが原因で出る泡を消すのが目的) の使用で、かなり失われてしまいます。もっとも、サポニンの場合は、少なくなっているからこそ、毒性を心配する必要もないわけです。
反対にカルシウムは、ゆで大豆が100g当たり70mgなのに対し、もめん豆腐は120mgと、割合的に増えています。