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1.発酵した大豆をそのまま食べる納豆

納豆はいまでこそほとんどがパッケージ入りですが、昔はわらに包んであったことは、みなさんよくご存じでしょう。いまでも茨城県の水戸など納豆の有名産地では、昔懐かしいわら包みの納豆もたくさん売られています。

納豆がもともとわらで包まれていたのは、わらには「納豆菌」という菌が付着しており、この菌を利用して大豆を発酵させて作っていたからです。

基本的な納豆の作り方は、次のとおりです。まず大豆を水に浸してよく水分を吸収させ、蒸し煮します。これを熱いうちにわらに包んで、温度を40~42度ぐらいに保った発酵室に入れて、わらに付いた納豆菌を繁殖させます。その納豆菌が大豆のたんぱく質を分解して発酵させてくれるわけですが、だいたい1日ぐらいの発酵で、ネバネバした納豆ができあがります。

豆腐に比べれば、じつに簡単な製法ですから、昔は農家などで各家庭なりの方法で作られていました。ですから、伝統的な作り方の納豆は地域色が豊かで、とくに発酵室の作り方や適度な温度の与え方など、発酵の方法にもさまざまな工夫がみられます。

日当たりのよい場所に穴を掘ってそこにわらを入れて燃やし、熱が冷めないうちにわら包みを入れ、盛り土をして発酵させる、岩で作った室に入れ、発酵途中で出る熱だけを利用 して発酵させる、樽を熱湯や湯たんぽで温め、わら包みを入れてふたをするなど、じつに多彩な方法があります。

なかでも、雪の中に埋め、雪の保温効果を利用して発酵させる東北地方の方法は、気候をうまく利用したユニークな手法です。 昔の人たちは温度調節にたいへん苦労したのですが、現在では適温に保つことなど簡単にできますから、近代的な発酵室で行われているのはいうまでもありません。

納豆菌とはどんなもの?
最近の納豆の主流であるパッケージ入りの多くは、蒸し煮した大豆に、市販されている納豆菌を接種して、容器に入れてから、適温に保って菌を繁殖させています。 この市販の納豆菌というのは、わらの納豆菌を分離し、それを純粋培養したもので、納豆菌は現在全国で3か所でしか作られていません。

全国の納豆業者は、ここから納豆菌を購入して、製造に利用しています。 では、納豆菌とはどんなものなのでしょうか。 納豆菌は1000分の1ミリくらいの大きさの、わらによく生息する微生物の一種で、数多くの分解酵素を作りだして、大豆のたんぱく質や脂肪を素早く分解する働きをもっています。

明治時代に納豆を作る菌として初めて分離され、納豆菌と呼ばれるようになりました。 同じ発酵に使われる麹菌や乳酸菌などの徴生物と大きく違うのは、納豆に見られるように、発酵すると強い糸を引くことです。納豆菌は専門的には「枯草菌」の仲間とされていますが、同じ枯草菌の仲間でも、これほど糸を引くのは納豆菌だけなのです。

もうひとつ麹菌などと違う点に、納豆菌は胞子を作ることがあげられます。市販の納豆菌とは、この胞子のことです。胞子が大豆に植えつけられると、胞子が発芽して、たくさんの納豆菌が生まれます。 納豆菌は、たいへん生命力の強い生き物で、摂氏100度以上になってもなかなか死にません。

稲わらは、刈り取られると強い日光に当てられ、殺菌されますが、この時も素早く胞子に姿をかえて、身を守ります。ですから、稲わらについた多くの雑菌は死にますが、納豆菌だけは生きのこり、有害な雑菌の繁殖なしに納豆作りができるわけです。 納豆菌の繁殖は、発酵の適温である40度くらいになると、30分に1度分裂するというすばらしいスピードで行われます。納豆の発酵が一晩、あるいは1日で終わるのも、そのスピードのおかげなのです。


2.納豆菌のスーパーパワー
納豆には100gに1000億個もの納豆菌がいるといわれ、いってみれば、納豆は生きた納豆菌のかたまりなのです。 何度も述べているようにこの納豆菌は、煮た大豆に植えられて適度な温度になると、分裂増殖を始め、さまざまな酵素を分泌して、大豆の栄養成分を分解していきます。

分解したものを自分たちの栄養源に用い、さらに増殖を続けていくことを繰り返しているわけです。 酵素というのは、おもにたんぱく質からできた物質で、私たち人間を含めた動物や生物の体の中で行われているさまざまな化学反応を助ける、いわば仲介役をしています。酵素はひとつひとつがそれぞれ特定の化学反応を助ける役割をもっていますから、種類はきわめて多いのです。

納豆菌が分泌するおもな酵素は、先ほども出てきたたんぱく質をアミノ酸に分解するプロテアーゼのほか、でんぷんをぶどう糖に変えるアミラーゼ、脂肪をグリセリンと脂肪酸にするリバーゼ、繊維質を糖に変えるセルラーゼ、ショ糖をぶどう糖にするサッカラーゼ、尿素をアンモニアにするウレアーゼなどがあります。 これらの納豆菌の酵素は、分離精製され、消化剤として医薬に利用されているほど、すばらしい働きがあるのです。

納豆の酵素には整腸作用がある
強力な酵素によって、大豆の成分が分解されているために、納豆は消化吸収がよいわけですが、納豆菌の酵素の役目はそれだけではありません。これらの酵素は生きていますから、納豆を食べると酵素も一緒に体内に入り、胃や腸で働いてくれます。

つまり、納豆と一緒に食べたコメや肉魚、野菜など、ほかの食べ物も、納豆酵素が分解してくれるのです。 プロテアーゼやアミラーゼなどの酵素は、私たちの胃液や勝液、腸液などからも分泌され、消化作用を行っていますが、そのうえに、納豆の強力な酵素が加われば、消化吸収がたいへん楽になります。

いってみれば、納豆を食べることは酵素を食べることでもあり、その意味で納豆は「酵素剤」という、消化のための薬のような存在だともいえます。そのうえ納豆には、腸などの掃除役をしてくれる食物繊維がたっぷり含まれ、さらには大豆のオリゴ糖が腸内のビフィズス菌の働きを活発にしてくれます。下痢などは、腸内に悪い細菌が繁殖しているのが原因でも起こりますが、ビフィズス菌はこの悪い菌の繁殖を抑える働きもしてくれるのです。

酵素だけでなく、 こうしたさまざまな作用が加わりますから、納豆は消化整腸作用にたいへんすぐれています。 納豆の消化整腸作用は、昔からよく知られていて、現在でも東北や関東の一部では、胃や腸の不調は納豆で治ると伝えられています。納豆菌をそのまま食べたり、納豆に熱湯を注ぎ、よく混ぜてそのスープを飲むと、胃腸がすっきりするといわれています。

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