1.善玉コレステロールを増やすリノール酸
いまや健康管理の合いことばのように、「成人病予防のために、動物性脂肪よりも植物性脂肪を多くとろう」と叫ばれています。
ここでは、なぜ植物性脂肪が「善玉コレステロール」を増やし、血液中のコレステロール値を低下させるのかを、少し詳しく説明しておきましょう。
コレステロールは、細胞膜の材料などとして大切な物質ですから、食べ物でとるほか、肝臓でも合成されていて、それらは血液を経由して、体中の各組織に送りこまれます。その際、コレステロールは脂なので、血液には溶けないため、たんぱく質や、やはり脂である中性脂肪やリン脂質などと手を結び、複合体を作って、血液の中を運ばれています。わかりやすくいえば、たんぱく質という運搬車に積んで血液中に送られるのです。
俗に善玉コレステロールとか悪玉コレステロールと呼ばれるのは、運搬車の種類をさしています。肝臓から血液中へと運ぶ役目の運搬車は、正式にはLDLといい、これが血液中に増えすぎると、コレステロールが血管に付着しやすくなるため、悪玉コレステロールと呼ばれるのです。
一方善玉コレステロールは、HDLといい、血液中のコレステロールを肝臓に戻す運搬車です。血液中のコレステロールが多くなると肝臓に運び戻して分解してしまおうとするのです。その時の運搬車がHDLであり、血液中のコレステロールを減らしてくれるので善玉と呼ばれます。肉類などコレステロールの多い食べ物を食べて血液中のコレステロールが増えてもHDLという強い味方がたくさんいれば、問題はあまりないことになります。
このHDLになりやすいのがじつは植物性脂肪に多く含まれる、リノール酸など不飽和脂肪酸なのです。たくさん摂取すれば、それだけHDLが増えて、血液中のコレステロールをせっせと肝臓に戻してくれます。その結果、血液中のコレステロール値が下がっていきます。
反対に、動物性脂肪に多い飽和脂肪酸は、LDLになりやすいため、とりすぎは控える必要があるわけです。
脂肪という栄養素はエネルギーの貯蔵や効率的なエネルギー供給源として、私たちの体に欠かせないものです。
一般的に、植物には脂肪はあまり多く含まれていないのですが、大豆には100g中20gと、脂肪が豊富に含まれています。そのため、この脂肪を利用して、てんぷら油やサラダ油、マーガリンなど、植物性油脂が作られています。
大豆の脂肪の特徴は、その80%余りが、体によいといわれる「不飽和脂肪酸」で占められていることです。
脂肪酸というのは、脂肪を構成する物質で、大きくは「不飽和脂肪酸」と「飽和脂肪酸」に分けられています。どちらの脂肪酸も体には必要ですし、どんな脂肪も、どちらか一方だけ含まれるということはありません。しかし一般的に、大豆をはじめとした植物性脂肪には不飽和脂肪酸、動物性脂肪には飽和脂肪酸が多く含まれているのが特徴です。
不飽和脂肪酸が体によいといわれるのは、血液中のコレステロール値を下げる働きをするためです。反対に、飽和脂肪酸はコレステロール値を上げてしまいます。
しかも、飽和脂肪酸の多い動物性脂肪にはコレステロールが多く含まれていますが、植物
性脂肪にはコレステロールがほとんど含まれていません。最近よく、成人病予防には、動物性脂肪より植物性脂肪を多くとるようにいわれるのもこうした理由からなのです。
体によい不飽和脂肪酸の代表選手ともいうべきものが「リノール酸」です。食用油の広告などで名前を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。植物油でリノール酸がもっとも多いのはサフラワー油で、脂肪酸のうちの80%近くを占めています。大豆油もこれにはかないませんがひまわり油、綿実油とともに、50%以上のリノール酸含有率を誇っています。
HDLが少なく、血液中のコレステロール値が高くなるとコレステロールが血管に付着し、動脈硬化の原因になります。
その予防のためにHDLを増やしてくれるリノール酸などの不飽和脂肪酸がたくさん必要なのですが、もうひとつ、リノール酸が不足すること自体が、直接動脈硬化を起こしやすくするといわれます。リノール酸が、血管などの細胞膜の形成に、不可欠なものだからです。
細胞の膜というのは、たんぱく質層とたんぱく質層の間に脂質でできた層が入った、サンドイッチ状をしています。この脂質層の構成は、半分がリン脂質で、あとの半分は糖脂質とコレステロールが1対1の割合になっています。層の形成には、これが一番安定した割合なのです。
リノール酸はこの脂質層の形成に関与していて、不足すると、脂質層でのコレステロールの割合が高くなり、安定した層ができなくなります。
細胞膜は壁のように閉ざされたものではなく、膜を通っていろいろな物質が細胞の内と外を出入りしているのですが、不安定な状態の細胞膜では、そうした出入りに障害がでてしまいますし、弾力性に欠けてきます。
いわば細胞が老化してくるわけですから、さまざまな障害がでてくるのは当然です。血管の細胞の弾力性が失われていけば、動脈自体に柔軟性がなくなり、動脈硬化を引き起こしていくことになるのです。
大豆の脂肪にはこの大切なリノール酸が50%以上含まれています。豆腐や納豆に 加工してもこの含有率はほとんど変わりません。脂肪の多い分、納豆はもめん豆腐の約2倍、きぬごし豆腐の約3倍のリノール酸を含んでいます。