1.豆腐は21世紀に必要な古くて新しい健康食品
朝食でおなじみの味噌汁の具にはじまり、冷やっこ、湯豆腐と、豆腐は数千年の歴史をもつ大豆加工食品の中で、もっとも広く食べられている食品です。
豆腐の原料となる大豆は植物でありながら、タンパク質と脂肪を多く含んでいます。このことから豆腐は「畑の肉」とも呼ばれています。大豆自体は消化吸収しにくいですが、それを消化吸収しやすい形に作り直し、乳児から高齢者までだれにでも食べることができる食品として生み出したのは、ほかならぬ先人たちの知恵といえると思います。
中国で発祥し、日本で育った豆腐ですが、本格的に庶民の食べ物となったのは江戸時代といわれ、天明2年に刊行された豆腐料理の本『豆腐百珍』は、続編が出るほどの爆発的な人気があったみたいです。
以来、豆腐は全国津々浦々まで普及し、現在に至るまでさまざまな料理に使われ、日本人の食を支えてきました。
厚揚げやがんもどきなど豆腐から作られる加工品も数多く、独自の食文化も形成しています。
これまで日本人の食生活の中で重要な核となってきた豆腐は、高タンパクで、老化を遅らせる成分や物質をいろいろ備え、むかしからいわれているように長寿食なのです。
さらに、美肌づくりなどに効果のある美容食として、またカロリーが少なく、水分が多いため満腹感が得られ、栄養不足にならないという点で、すぐれたダイエット食にもなっています。
豆腐の持つすぐれた働きはこれだけではありません。
ガンや高血圧、動脈硬化、心臓病、糖原病などの成人病や肥満などの発症の抑制や回復、健康の維持を果たす食品の機能性、いわゆる「機能性食品」としても脚光を浴びているのです。豆腐に含まれている成分にそれらの機能のあることが研究され、現在、次々に解明されています。
老若男女を問わず、長いあいだ親しまれてきた日本の伝統食である豆腐は、歴史の古い食べ物でありながら、安心して食べられる新しい健康食であり、21世紀にこそ必要不可欠な食品であることは間違いありません。
現代は豊かな食生活の中にあって加工食品などが出まわり、ミネラル不足の状態にあるといわれています。女性ばかりでなく、10代から20代前半の男性にも貧血の症状がみられるといわれているのも、ミネラルのひとつである鉄が不足しているからでもあります。
ご存じのように、鉄は赤血球に存在するヘモグロビンの構成成分として欠くことのできないものです。貧血を防ぐには血液を作る材料を毎日の食事から十分にとることが必要です。
鉄以外にもミネラルは大切な働きをしています。栄養素としての力ルシウムや亜鉛などのミネラルは体重のほぼ5%を占めており、骨在形成する灰分としてからだを支えたり、機能を調整する役目を果たしています。
このためミネラルが不足すると、体内の機能は正常に働くことができなくなり、生理的にも心理的にもいろいろな異常が現れてきます。
豆腐にはカルシウムをはじめ、リン、鉄、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅と「四訂食品成分表」にある項目のすべてが含まれています。とくに、母乳にも含まれている亜鉛が木綿豆腐100g(3分の1丁)には680ug、鉄も1.4mg含まれています。
これを同じタンパク質食品であり、鉄分が多いとされている和牛肩肉と出較すると、鉄は100g中1.9mgで亜鉛や銅は含まれていません。つまり豆腐3分の2丁で牛肉を100g食べたときより鉄分を多く摂取でき、牛肉に不足しているミネラルが補えるのです。豆腐はミネラル不足の現代の食生活をカバーするのに大いに役立つ食べ物です。
もちろん豆腐だけでなく、バランスのとれた食事をするうえで肉や野菜などからの摂取も必要であることは言うまでもありません。
豆腐にオリゴ糖が含まれているのも見逃せません。オリゴ糖は、健康によい効用があるとして以前から注目されているものです。
豆腐に含まれているオリゴ糖は体内の消化酵素では分解されませんが、大腸に生息している大腸菌によって分解されます。中でもとくに有用菌とされているビフィズス菌は、このオリゴ糖を栄養源として増殖します。
ビフィズス菌は、腸内の大腸菌などの老化や病気の誘因ともなる悪玉菌の増殖を抑えるほか、腸の運動を活発にしたり、免疫力を向上させたり、発がん物質を分解するなど、多くの有用な作用があります。
いい換えれば、オリゴ糖そのものの働きでなく、オリゴ糖の摂取によって、ビフィズス菌などが増えてからだによい効果があるというわけです。
また、ビフィズス菌は母乳で育っている赤ちゃんに多く、年齢をとるにしたがって減少していきます。腸の中にはたくさんの菌がますが、老齢になるほどビフィズス菌は少なくなり、逆に腐敗菌や大腸菌が多くなるのが一般的です。
腸内には100種類、100兆以上の腸内細菌が生息してますが、中でもビフィズス菌は比較的多く存在しています。しかし、病気のときや疲れたとき、ストレスがたまったときなどには減少してしまうのです。腸内の環境からみると、ビフィズス菌が増えるようなときは、腐敗菌などの悪玉菌が少なくなり、反対にビフィズス菌が減るようなときは腐敗菌が増えていることがわかりました。
ではなぜ、ビフィズス菌は悪玉菌の増殖を抑えることができるのでしょう。ビフィズス菌は、腸に入ってきた私たちの食べ物のうち、糖類を分解していく過程で、酢酸と乳酸を作りだします。
酢酸も乳酸も酸性の物質ですが、そのため、ビフィズス菌が増え、じつは悪玉菌は、この酸性物質が嫌いなのです。
その活動によって酢酸や乳酸が多く生まれてくると、悪玉菌のほうは逆に活動が鈍くなり、増殖もあまり行えなくなります。このほかにも、ビフィズス菌には、やはり酸に弱い病原菌の感染から体を守る、腸の嬬動運動を活発化させる、免疫力を向上させる、発がん物質を分解するなど、さまざまな働きが認められています。
私たちの体にこれほど多くの有用な働きをしてくれるビフィズス菌を増やしてくれるのが、大豆に含まれるオリゴ糖のスタキオース、ラフィノースなどです。
大豆の糖質はこのオリゴ糖が中心ですから、大豆や、大豆のオリゴ糖を多く残している豆腐などの大豆加工品を食べることは、おなかの中のビフィズス菌を元気づけてくれるというわけです。ただし、大豆食品でも、残念ながら、枝豆や大豆もやしにはこれらの糖が含まれていません。
オリゴ糖は、大豆が発芽する時のために貯蔵してあるエネルギー源なので、若い大豆やすでに芽の出てしまったものには含まれないわけです。そのほか納豆、しょうゆ、みそなども、発酵過程で分解されてしまうのでやはり失われています。
オリゴ糖とともにビフィズス菌の働きを助けるものに、食物繊維があります。大豆には食物繊維もたっぷり含まれていますから、この点でもビフィズス菌を応援してくれているのです。オリゴ糖の少ない納豆も、食物繊維の効果は期待できます。
腸内のビフィズス菌を増やすオリゴ糖
炭水化物でもっともよく知られているのは、でんぷんなどの糖質でしょう。コメや小麦など穀類はこのでんぷんが中心の食品です。ところが大豆には、でんぷんはほとんど含まれていません。
大豆に含まれる糖質は、「オリゴ糖」という種類が中心で、そのなかでも「ショ糖」、「スタキオース」や「ラフィノース」という物質に富んでいます。ショ糖は、サトウキビに多く含まれる糖質で、砂糖のもとになるものです。
スタキオースとラフィノースは、オリゴ糖のうちでも消化されにくい種類です。糖質はもともと、体の中でグルコース(ぶどう糖)などに分解され、私たちが動いたりするためのエネルギー源として使われます。その点、消化されないためにエネルギー源として利用できないオリゴ糖は、栄養的には価値が低いといえるかもしれませんが、そのぶんダイエットにはよいということになります。
しかも腸内のビフィズス菌を増やすという、ちょっと意外な面でも役立っています。ピフィズス菌は、腸内の善玉菌の代表で、有害物質を作りだす悪玉菌の活動を抑えたり、健康を守るさまざまな働きをしている、たいへん有益な細菌なのです。
細菌も、生きていくためや増殖するためには、私たち同様にエネルギーを必要としていますが、そのさいスタキオースやラフィノースを利用することがわかっています。大豆には、スタキオースが4パーセント、ラフィノースが1%程度含まれいますから、ピフィズス菌のありがたい栄養源になっているといえるわけです。