目次

1.糖尿病の治療や予防に期待トリプシンインヒビター

大豆のトリプシンインヒビターという成分
日本の糖尿病患者数は、はっきり糖尿病とはいえないが、ひじょうになりやすい予備軍と呼ばれる人も含めれば、500万人とも600万人ともいわれています。原因は過食や美食、運動不足といわれ、今後もますます増加していくだろうといわれています。

糖尿病は、がんなどのように、それ自体が怖い病気というわけではありませんが、進行すると合併症を起こし、それがたいへんな事態を招くことになります。たとえば腎臓病を合併して人工透析を受ける事態になったり尿毒症で命を落としたり、網膜症を合併して失明することがあるのです。それを考えるとたいへん怖い病気ですが、にもかかわらず、治療や予防の方法といえば、基本的には摂取カロリーを制限する食事療法に頼るしかありません。

ところが最近、大豆の成分である「トリプシンインヒビター」という物質が、糖尿病の予防や治療に効果があるのではないかと、注目されるようになりました。トリプシンインヒビターは、たんぱく質の一種で、これまでは大豆の有害成分といわれていました。この物質が私たち動物の体内に入ると、腸内に分泌されるトリプシンというたんぱく質分解酵素に結合してしまい、その働きを失わせてしまうからです。

このトリプシンは膵臓で生産されていますが、たんぱく質分解酵素の働きが悪くなると、体は量でカバーしようとしますから、膵臓でトリプシンをどんどん生産するようになり、その結果、膵臓が肥大してしまうことが、動物実験で確認されてきました。

なぜそんな物質が大豆中に存在するかは、明確にはわかっていませんが、大豆のたんぱく質を自分自身で分解させてしまうのを防ぐ、種として春に芽が出るまで休眠することに関係する、たんぱく質の代謝を調整する、昆虫などの食害を防ぐ、などの目的が推測されています。

それはともかく、トリプシンインヒビターはたんぱく質分解酵素の働きを阻害するわけですから、たんぱく質の消化吸収率が悪くなり、さらに膵臓を肥大させるとなると、大豆食品をたくさん食べるのが心配になってきます。ただ、この物質は加熱をするとトリプシンと結合しなくなるので、加熱調理した大豆や豆腐、納豆などの加工品には害になるほどの強い作用はありません。

2.トリプシンインヒビターはインスリンを増加させる

このように、これまで悪役とされていたトリプシンインヒビターが、糖尿病に効果的ではないかと注目されたのは、トリプシン増産のために膵臓が肥大するという点に着目したからです。糖尿病は、簡単にいえば、血液中の糖(ぶどう糖)が多くなったまま減らない病気です。健康な人でも食後には血糖値が上がりますが、そうするとインスリンというホルモンが分泌され、血液中の余分な糖は肝臓でグリコーゲンに変えて貯蔵されるため、しばらくすれば血糖値も下がります。

しかし糖尿病の人は、インスリンを分泌するB細胞という細胞が減少したり働きが弱くなったりして、余分な血糖が処分できず、そのために血糖値が上がったままなのです。 このインスリンというホルモンが分泌されるのは、トリプシンと同じく膵臓です。

先ほどトリプシンインヒビターが膵臓を肥大させるといいましたが、肥大するのは細胞が増えているためです。とくに、さまざまなホルモンや酵素を分泌する部分の細胞が増大していますから、インスリンも当然ながら大量に生産されてくる可能性があります。

インスリンがたくさん分泌され、活発に働くことができれば、血糖値は下がります。怖い糖尿病の合併症は、血液がつねに糖づけになっていることから起こるので、血糖値が正常であれば、まったく問題はないのです。

以上のことはまだ十分に解明されていない点もありますし、トリプシンインヒピターを、実際の糖尿病にどう利用できるかもまだわかっていませんが、今後の研究によっては、糖尿病の治療や予防に役立つことがおおいに期待されています。

3.調理によって何が変わるか

現在市販されている豆腐は、十分に加熱されていないので、「なま豆腐」と思っていいでしょう。したがって、糖尿病の予防や治療に効果が期待されているトリプシンインヒビターも少し生きています。加熱すれば作用しなくなりますから、糖尿病の気になる人は、 むしろ「なま豆腐」のままくらいがよいかもしれません。

豆腐は一般に、加熱調理しても、たんぱく質や脂質などの主要な成分の損失は、ほとんど心配ありません。 むしろ身がしまり、アクが外に出ます。ただし、長く煮すぎると、たんぱく質が熱で変化して硬くなり、スが入ったりします。

調理法による違いとしては、たとえば湯豆腐にした時はアクと糖類が湯の中に出ていき、炒めた時には脂質が外に出て舌ざわりが少し変わります。 いずれにしても、調理によって豆腐のよさが失われてしまうというほどのことはありませんから、調理法を気にするより、むしろいろいろな料理に取り入れる工夫をして、毎日の食卓に豆腐をのせていただきたいと思います。


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